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実は編集者の手が入っていたといえば [book]



ジェイン・オースティンが完璧な原稿を書いた作家だという神話があったことも知らなかったが、そういう神話が最近まで無邪気に信じられていたというのも驚きだ。

実は編集者が大幅に手を入れていたことが後にわかった作家というと、レイモンド・カーヴァーを思い出す。逆に水嶋ヒロくんは、作品が世に出る前から編集者による大きな修正が入ると公表されている点で作家としては世界的に見ても珍しい部類に入るのではないか。

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選
レイモンド カーヴァー Raymond Carver
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作家デビュー [book]



IPCC議長が小説を書いたという話。ジョセフ・ナイ教授がクリントン政権内部にいた日々を回想して虚実とりまぜて書いた『ダーティー・ハンズ』を思い出した。あの本も赤裸々な不倫の場面とかあって、おもしろかったなあ。奥さんが内容に激怒して米国外でしか出版できなかったいわくつきの作品。「経産婦にはない肌の張り」とかけしからん記述もあって、ついでにうちの家内も激怒w

ビジネス書 [book]


東京駅の栄松堂書店で買った。鉄道関係のマニアな本がけっこう置いてある。羽田空港にある航空関係に強い山下書店じゃなくて名前忘れた小さい書店と並んで注目したい。

さて,『伸びない市場で稼ぐ!』が扱っているのはアメリカだけの話ではないが,これからは世界的にどこも「伸びない市場」だと考えたほうがいいようだ。ここで取り上げられている事例は,どれも成熟市場と考えられていた舞台でイノベーションに成功した例。ニッチを探り当てたというより,新しい市場を力強く切り開いた例がほとんど。だから他人の成功体験としてまねるのはかなり難しいように感じられる。

今月から働き始めた勤め先も,典型的な「伸びない市場」だから,何かヒントになるかなと思って読んだのだけれど,どうだろうか。種はいろいろ転がっていそうだけど。


国語辞典の世界 [book]


石山茂利夫『国語辞書事件簿』(草思社)読了。

国語辞典の世界はあんまり知らないけど,『例解国語辞典』の秘められたちょっと情けない増刷事情,『広辞苑』の新村出を批判した松井簡治(げ,ことえりが一発で変換した)の話など興味深く読める。

でもこの人の文章があんまり好きになれないタイプ。「論文じゃない」のをいいことにオレがオレが言い過ぎ。あと,この本読むと国語辞典のことが信じられなくなる,というか,昔から国語辞典はそんなにあてにならないものだと思ってきたけれど,それが裏付けられる。

むしろ和英辞典を引いたほうが言葉の意味なんかよく見えると思う。基本語彙の場合は特に。でも,さすがに和英じゃ項目が少なすぎて国語辞典の代用にはならないなあ。


ダグラス・ケネディ [book]


はてな bk1 を見ていて,「超クールな新鋭ハードボイルド作家を教えてください」というのに回答したかったけど,残念ながら思い当たる作家がいないのでできない。サム・リーヴズなんかセンチメンタルだけど好きだった。でも10年ぐらい前に集中して訳書が出たきりで,最近は日本では新刊が出てないようだ。現地でも出てないのかな。

(2.26 追記:結局サム・リーヴズで回答した。Stop, You're Killing Me! というサイトを見ると,新刊が出ていないわけではないようだが,日本には紹介されなくなってしまっている。)

ほかに最近の好みではダグラス・ケネディ。ハードボイルドというのとはちょっと違うが,『仕事くれ。』がとてもおもしろかった。ほかに『ビッグ・ピクチャー』がなんかご都合主義的なところもなんとなく親近感を覚えたりして。悪事を働く人々がせこい,そんなことで罪を犯すなんて,といったつまらないことでついつい堕落してしまうのがいい。

『ビッグ・ピクチャー』が第1作だと思っていたが,アマゾンで検索すると,それ以前の作品である『どんづまり』が2001年に出ているようだ。映画化されているらしく,プロットを見るとデニス・ホッパーがドン・ジョンソンとヴァージニア・マドセンを主役に据えて撮ったB級映画『ホット・スポット』に感触が近い。もしかして大幅に翻案したものかな,と思ったがそうではなく,日本では劇場未公開の WELCOME TO WOOP WOOP という作品らしい(情報源:http://sv3.inacs.jp/bn/?2004030006554326004515.kumoturu)。見てみたい。


うそばっかりの惹句 [book]


昨日の日記 id:zokkon:20050220 でちょっとふれたアラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』は,高校を卒業するぐらいの頃にかぶれていた「おれたち/やつら思考」の教科書になった作品で,要するにイギリスの労働者階級の単純な世界観が魅力的に見えたわけなのだが,新潮文庫のカバー表4の内容紹介がうそばっかりなので憤ったものだった。

「主人公は父親とか上司とか,権威の名のつくものが大嫌い」だと書いてあったのだが,父親は「おれたち」側の人間で,尊敬と親愛の情を感じる対象であって,小説の中身と全然違う。スティングの自伝でも父親はそういう存在だった。

同じように,内藤陽介『切手と戦争―もうひとつの昭和戦史』もすごくおもしろかったのに,帯にミスリーディングなことが書いてある。

「プロパガンダ切手で敵国を埋め尽くせ! これはまさしく情報戦争だ」

いくらなんでも,敵国を自国の切手で埋め尽くすのは無理だろう。だれもそんなことしてないって。風船爆弾のほうがまだ現実的だ。ちなみにこの本の本当の中身は,満洲や東南アジアでどんな切手が使われてそれがどういう政策の反映だったかを丁寧にたどったもの。切手というか手紙はすごく貴重な資料であるということが実感できた。しかも資料として紹介されている切手やカバーは全部著者のコレクション。この著者は最近いろんな活字媒体でひっぱりだこだが,さもありなん。

あともう1つ惹句がうそばっかりの本に最近当たった気がするけど忘れちゃった。


スティング [book]


自伝。タイトルも『スティング』(原題は Broken Music だけど)。

主要な部分は,グラマースクールあたりから「ロクサーヌ」がそこそこの注目を集めて無事 A&M からアルバムを出すところまでの苦労物語。ダーク・ボガードみたいにこれから何冊も自伝を出していくのかなあ。

わりと淡白に振り返る。少年期の話はアラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』を思い出させてほのぼのした気持ちになるのはたぶんぼくの個人的な事情による。ポリス解散に至る経緯とか,解散とほとんど同時期だったという最初の結婚の破綻の原因といった,多くの読者が知りたいところはさらっと触れられているだけ。スチュワート・コープランドが作ったポリスに加入後,メンバーの中で最も音楽ビジネスの経験が浅いスティングが主導権を握るに至った事情についても,「作曲のキャリアは自分がいちばん長かった」と簡単に説明しているだけ。もっといろいろあったんだろうに。マイルス・デイビスとの出会い(You're Under Arrest の録音にフランス語のナレーションで参加)の場面は面白かったけど,マイルスのバンドから何人も引き抜いて激怒させたことについては一言もなし。

総体としては,スティングってやっぱり冷たい人なんだろうなあという印象がぬぐえなかった。

音楽的な成長のヒントみたいなのはあんまりなかったなあ。33回転のレコードを45回転で聴くと1オクターブ上がるからベースパートが聴き取れるとかいう話はそれほど珍しくないし,「成長期にこんなバンドに夢中になった」という話もビートルズぐらいだし。

それにしてもこの訳者は下手糞。つーか編集者が全然チェックできてないみたい。「テノール・サキソフォン」とか「ディジー・ギレスピー」とか,聞き慣れない言葉がポンポン出てくるし,スティングに「やるっきゃない」とか言わせるし。


ちくまプリマー新書 [book]


考えるための道具箱id:yasulog:20050127#p3 で話題になっているが,ちくまプリマー新書というのが創刊されたそうだ。「ちくまプリマーブックス」というレーベル(NHKブックスとか新潮選書なんかと同じ判型だったと思う)が既にあるけど,それはどうするんだろう。

本文13.5級かあ。今はそれぐらいが標準になってきたってことだな。

いかにも筑摩という筆者陣で意外性があまりない。もうちょっと若い書き手もそろえたほうがいいと思う。あと,人文系にちょっと偏りすぎというか,自然科学系がもうちょっと欲しい気がするけど,売上的にはどうなのかな。


ぼくの翻訳人生 [book]


ぼくの翻訳人生 (中公新書)

『ブルーノ・シュルツ全集』(ヤスケン大絶賛の書評を見て買ったけどまだ読んでない)を訳した,ポーランド語その他の大家である工藤幸雄先生の回想録。ゴシップ系のネタも満載,日本語の乱れについてもブツブツ小言を並べる,という必ずしも読後感のよくない1冊だけど,小言のほとんどは共感できるものなのだった。「すべからく」の誤用の話とかね。「21世紀半ばにはまた文学全集の時代が来る」という根拠不明の予言があったりして,ときどき虚を突かれるようにおもしろい箇所が出てくる。しかし3年かけて執筆した割には,裏をとりもしないで書き飛ばした記述がいくつもあったりして,著者自身(+編集者)にとってどういう位置づけの本なのかよくわからないが不思議な味わいがある。


最近読んだ本 [book]


ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』(新潮社)ISBN:4105900196新潮文庫版も)

Norah Jones と並んでインド系の美女として評判も高い(それも「ものすごい」という形容詞がつく)著者だが,別にそれで買ったわけではない。

日本語版の表題作が上岡伸雄『現代英米小説で英語を学ぼう』で紹介されていて,気になっていた。

いずれもインド系の人々が登場する短編集なのだが,主人公たちは著者と同じ属性の人というわけでもなく,多彩なバックグラウンドをもっているのが特徴。夫婦とか隣人とかの間ですれ違いコミュニケーションが発生する。やや苦い結末に終わるものがほとんどだが,なかにはハッピーエンドのものもあって,ほっとしたり。かなり読み応えのある短編集だった。ストーリーとかが似ているわけではないけど,ちょっとフィツジェラルドを思い出したりした。


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